江國香織さんの旅ドロップ。旅に出たくなるエッセー集【今日のセレクト本vol.84】

旅に出たくなるときは、旅エッセイがおすすめです。知らない国の空気を感じて、懐かしい気持ちを思い出させてくれます。

こちらの記事では、旅に出たくなるエッセー集の、江國香織さんの「旅ドロップ」をピックアップしました。本の内容や、感想・魅力をご紹介します。

旅ドロップ の内容

「旅ドロップ」はたくさんの場所を旅した江國さんの感じたことをまとめた、37篇のエッセイです。パリ、ロシア、ローマ、アメリカ、大分、富士山、長崎、東京など本当にたくさんの場所を、仕事やプライベートで訪れています。

JR九州の車内誌「Please」で掲載されていたエッセイ

実はこれらのエッセイは、JR九州の車内し「Please(プリーズ)」で2016〜2019年のあいだに掲載されていたものをまとめて、2019年に発売されました。

江國香織さんのエッセイが読めるなんて、なんて贅沢な雑誌なの♡さらに旅をテーマにかかれた「トーマス・クックとドモドッソラ」と3篇の詩を合わせて、本にまとめられています。

旅ドロップの感想・魅力

江國さんのエッセイの魅力をまとめるなら、3つ!

①コーヒーが似合う
②なんでもないことも物語になっちゃう
③旅するときの気持ちを思い出す

それぞれ解説していきます!

①コーヒーが似合う

この本を読むなら、断然コーヒーを淹れてほしいです。(別に淹れなくてもいいのですが笑)まったりした空気感を自分の周りに漂わせたら、そこから本をパラパラ。

ページをめくるたびに違う土地に連れて行ってくれるので、心もふわふわ旅をするような気分になります。もしくは移動中の電車の中もぴったり。まさに移動している空気感が、本から出ている空気感とリンクする気がします。

②なんでもないことも物語になっちゃう

なんでもない一コマでも、江國さんの手にかかれば物語になってしまうすごさを感じてしまいます。たとえば夫との旅行で雨が降ってきたことをつづった「旅先の雨」、シベリアの小さな町で、映画館の館長さんに淹れてもらったという「ロシアの紅茶」の話。

まだまだあるけれど、その2つは2回ずつ読んでしまいました。その場の情景も思い浮かぶし、なにせありありと感情までなぞることができるのです。

③旅するときの気持ちを思い出す

そしてなにより、私たちの中に芽生える小さな感情や葛藤を思い出させてくれるのが、作家さんのすごさだと思っています。たとえばわたしは世界一周に出たとき「もう死ぬかもしれない(もちろん死ぬつもりはないけれど)」という臆病さと戦いながら飛行機に乗りました。

自分は世界一周に旅に出てみたいのに、しばらくの間家族とも彼とも、愛犬とも会えなくなっちゃう。しかもどこかで事故にでもあえば、それ以降会えなくなってしまう。そんなときの気持ちをまさにこれ。

旅が好きで、旅の多い生活をしているくせに根が臆病な私は、旅にでる直前の空港や駅のホームで、あるいは旅先のホテルの部屋で、自分を奮い立たせ、勇気づけるために、いまもときどきこの歌を口ずさむ。
もちろん、旅である以上いずれ帰るのだし、それはわかっているのだが、それでもなお、旅にでるためにはどうしても、いったん家を “捨てる” 必要がある。(P.19〜20)

あー、あの感情を思い出してしまった!名言!という感じでした。

旅ドロップのまとめ

江國香織さんの「旅ドロップ」は、旅に連れてってほしいときにおすすめです。日本に、そして家の中や会社など、いつもの場所にいたとしても、ふわっとどこかにワープできる気持ちが味わえるでしょう。

非日常を味わうのにぴったりなエッセイ。ぜひ味わってみてください。

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美しい日本語の世界にひたる散文集【今日のセレクト本vol.71】

江國香織さんをご存知ですか?「東京タワー」「間宮兄弟」など、ドラマや映画化された作品も多数ある作家さんです。私は江國さんが大好きなのですが、新刊『物語のなかとそと 江國香織散文集』が最高だったので、紹介したいと思います。魅力やおすすめポイントをまとめました。

江國香織さんの『物語のなかとそと』

こちらはこの20年の短い小説と、エッセイが集められた、散文集です。あの小説の裏側はこうなっていたんだ!とか、江國香織さんってこういう人だったのね。ということがたくさん発見がありました。大好きな小説の一つに「金米糖の降るところ」がありますが、これも苦労して書かれた様子が描かれていて、なんとも愛おしい気持ちになりました。

日本語が美しいのが何よりの魅力

江國さんの言葉選びは本当に素敵で、一つ一つの言葉を読みこぼさないように、じっくりと読みました。いつもの3倍ほどの時間をかけて、じっくりと。それでもわからない言葉もあって、

  • かまびすしい(やかましい、という意)
  • 種なしピオーネ(大きめのぶどうの品種)

がわたしの辞書のなかに増えました。普段使っている日本語も、こんな風に洗練して使いたい、と大切に思ってしまいました。

わたしの心を代弁してくれているんではないか、という錯覚

初めて江國香織さんの小説「神様のボート」を読んだのが、大学生の時。それ以来、わたしの中では、江國香織さんが神格化してしまいました。わたしの心を代弁してくれているような、主人公がわたしかと錯覚するような、こんなこと言うのも恐れ多いけど、似た感覚を持っているのではないかと思ってしまう瞬間が何度もあるからです。誰かの中に無意識に健在している疑問や思いを、言葉にしてくれているのかな、とも考えてしました。

エッセイの中で衝撃的だった考え方や生活

今回はせっかくなので、私が逆に「こんなこと考えたことない!」と衝撃を受けたものをいくつかご紹介したいと思います。あくまで江國さんは淡々と、冷静に、綴っていますのでその世界観も伝わればいいなと思います^^

本の世界に生きるということ

本をたくさん読むのはわたしも同じなのですが、この感覚は持っていなかった!

昼間の時間の八割は本を読んでいるか書いているかで、家事その他、現実に対処する時間はたぶん二割。そのくらいだと思います。例えばこの二十年間、わたしが二割しか現実を生きていなかったとすると、二十年の二割は四年ですから、たった四年しか現実を生きていない計算になります。たった四年しか生きていないのに二十年も年を取ってしまったわけで、これもう、驚くなという方が無理な話です。(P.135)

逆に言えば、物語に没頭しているときは、現実に生きていないから、気をつけないといけないなと思いました。確かに、「家で何しているの?」と聞かれて「何してるんだろう・・・」と困ってしまったことがよくありました。でもよく考えたら本を読んでいるんですよね。この本を読んでいる時間が遥かに長いから、現実を生きていなかったということになります。

火葬場で褒められたい願望

これはなかなかわたしの発想にはなかったのですが、江國さんは火葬場で骨を壺に納めてくれる人に褒められたいのだそうです。

贅沢なかただったんですね。ええ、お骨を見ればわかります。(中略)尋常ではない量の果物を召し上がったんですね。メロン、西瓜、桃、ぶどう、梨。お骨の一つ一つがみずみずしい。こんなにつやつやしているということは、いいお酒をのまれてきたんですね。(中略)私、もう長いことこの仕事をしておりますが、こんなに幸福そうなお骨は見たことがありません(P.192)

だから今日も、全力で美味しいものを食べるんですって。私もたくさん美味しいものを食べたくなってしまいました。自分の魂が抜けて、骨だけになったところを想像するって、つるんとした気分になれて意外に清々しいものです。

こんな風に江國さんの日常や、考えていることの詰まった一冊でした。エッセイって人柄が出ると思いますが、江國さんはそれでも謎に包まれていることがあるから、人を惹きつけるのではないかと思います。わたしもまたハマってしまいました♡

まとめ:ゆっくりと落ち着いた空間で味わって

江國さんの魅力はまだまだまだまだまだまだ、わたしなんかじゃ届かないんだってことを、読めば読むほど感じます。どうしてなのかわからないけれど、孤高の存在のイメージ。いつか近づけるように、わたしも自分の道を頑張りたいと思いました。ぜひゆったりと、どんと構えて、この本を味わってみてくださいね。

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